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結局何なの?検察庁法改正問題

本日初投稿です。社会のお時間管理人のりょっちんです。

なれないことを突然しだした若造です。どうか、生暖かい目で見てください笑。

 

 さて、最近Twitterやテレビでコロナに次いで注目されている「検察庁法改正問題」

三権分立の崩壊」、「法治国家終了」とまで言われているこの問題。どこが問題なのか、はたまた、そもそも問題なのか。一緒に考えたいと思います(引用の長ったらしい文章は読まなくても理解できるよう構成につとめてます)。

 

1.今回のポイント

  • 検察官の勤務延長は内閣が決める
  • これまで認められなかった定年延長
  • 検察がもつ権力

この問題についてはぎゅっとまとめるとこの3点が抑えられれば大丈夫です。

2.本編(脱力解説)

 定年延長とはそのまんまの意味で、勤務する者の定年を延長する制度です。例えば、一大プロジェクトを統括するポジションにいる人が定年を理由に突然退職されたら大変です。引継ぎができれば大した問題ではありませんが、違う人に業務を引き継ぐことができなかったり、その人にしかできない仕事だったら困りますよね。そういった場合特例的に定年を延長することで、穴ができることのダメージをなくすというのが目的です。これが検察官に適用するのが問題だというのです。何が問題なのでしょうか?

①検察官の勤務延長は内閣が決める

 今回の改正案の大きな問題点は、ご存じのとおり「検察官の定年延長」です。具体的にはどういうことかというと、

  1. 検察官の定年を65歳まで引き上げ
  2. 検察官の定年は、法務大臣の準則に基づいて延長可(最大3年)
  3. 検事総長は内閣の定めるところにより勤務延長可(最大3年)
  4. 次長検事検事長は63歳で役職定年。しかし、内閣の定めるところにより延長可(最大3年)
  5. 検事正は63歳で役職定年。しかし、法務大臣の準則に基づいて延長可(最大3年)

 とりあえずこんな感じです。「なんで内閣が判断するの?」「なんで法務大臣が判断するの?」というと、検察庁は「行政機関であり、法務省の所轄だから」です。まあはっきり言えば、上司が人事を管理しているとみれば自然なことのように見えますよね?実際、現行法でも検察の任命権は内閣にあります。問題あるんでしょうか?
行政権の一部なんでしょ?法務省所轄なんでしょ?
でもこれが問題なのです。どう問題なのか?ちょっと歴史の時間になります。

②これまで認められなかった定年延長

 検察官にはこれまで定年延長が認められていませんでした。大日本帝国時代までさかのぼります。帝国議会のあるころは、検察官の定年延長は認められていました。それを検察庁法を制定するときに削除したんです。もともとあるものをあえて消したんですから、それなりの理由があるものだと思っておかしくないですよね。

◆定年延長規定の削除についての立法者意思

 検察庁法制定時の議論の中で、定年延長制度の導入は指摘されていました。それについて当時の木村司法大臣はこう答弁されました(よくわからない人は飛ばしても可)。

○伯爵橋本實斐君 更に細かい點になりますが、二十二條に、此の定年が六十五歳とございますが、是は先程御意見も出ましたやうでありますが、人に依りましては六十五歳に達しても、尚有能な方もあり得ることで、殊に非常に練達達識な方でございますれば六十五歳に達しても、之を職を去らせるのは非常に惜しいと云ふやうな例外もありますから、私の考では、原則は六十五歳を定年と致し、例外の場合に更に此の年齡を延長し得るやうな彈力性のある制度を設けらば如何かと存じますが、併し斯う致しますと、一面それに伴ふ弊害もあるかも存じませぬが、是は運營宜しきを得れば宜しいかと思ひます、さう云ふ點に付きまして御意見如何ですか

○國務大臣(木村篤太郎君) 其の點私から御答へ致したいと思ひます、此の年齡の點に付ては非常に議論のある所であります、どの邊を以て退職年齡を定むべきかと云ふことは、相當我々も考慮したのであります、御承知の通り「裁判所法」では、最高裁判所の判事は七十歳、檢察方面に於きまして、少くとも檢事總長の年齡は七十歳迄引延ばして宜いのぢやないかと云ふ意見も出たのであります、併し此の檢察事務は、裁判事務と餘程違ひまして、相當活溌性を有せなくちやならぬ、殊に他の行政官との振合の點から考へまして先づ六十五歳、普通の檢事は六十三歳にした方が宜いぢやないかと云ふことに一先づ落附いたのであります、露骨に申しますると、是は關係方面との間にも色々議論もあつたのであります、我々も隨分退職年齡に付て各國の實例をも調査したのであります、外國あたりでも御承知の通り、隨分高齡な人が裁判官をやつて居ります、現に昨年亡くなりました有名なアメリカの最高法院の長官でありましたストーン氏、是は六十五歳であります、今の最高裁判所の長官は、是はずつと若くて五十八歳になつて居ります、まちまちであります、但し凡そ人間の活動の能力と云ふものは、先づ六十五歳位が相當ぢやないかと云ふことに落附いたのであります、それでは最高裁判所の判事を七十歳にしたのはどうかと云ふことになりますが、是はなかなか人を得るのにむづかしい、殊に新憲法上、最高裁判所の地位と云ふものが非常に高められて、此の長官になる判事なるものは、國民の極めて厚い信頼を得なければいかぬのであります、さう云ふ人を得るのはなかなか容易なことぢやないと云ふ點から色々考慮致しまして、七十歳にしたのであります、是も打明けての話は、關係筋では六十八歳と云ふ議論も出たのであります、我々は七十五歳でも宜いのぢやないかと云ふ氣持を持つて居つたのでありますが、まあ七十歳に落附いたのであります、檢事の方では、總長は六十五歳、普通の檢事は六十三歳、先づ人間の活動能力の點から見て、是等が適當な所ぢやないかと云ふことから、斯樣に落附いた次第であります、併し御議論の點は能く分るのであります、我々と致しましても、實は斯う云ふやうな檢事總長あたりの人は、なかなか容易に見附からないのでありますから、相當高齡の人でもなつて戴くことが望ましいことぢやないかと考へて居りますが、一應先づ斯樣な觀點から六十五歳に落附いたのであります

出典:第92回帝国議会 貴族院 検察庁法案特別委員会 第1号 昭和22年3月28日

 この長ったらしい文章を該当箇所のみまとめると、検察官の定年を決めるにあたっては以下の点を考慮し決定したとしています。)

  • 最高裁判所判事は70歳が定年
  • 人間の活動能力的には65歳が妥当という結論に落ち着いたが、最高裁判所の地位は以前(日本国憲法制定前)より高められており、適格な人材を用意するのは容易なことでないため
  • 検察事務は裁判事務と余程異なり、相当活発性を持たせなければならない
  • ほかの行政官との釣り合いについての考慮

 この理由で定年延長規定を外しました…といってもよくわからないものです。それに実際、「確かにそうだけど…とりあえず定年年齢については総長65、その他63に落ち着いた」といった内容です。確かに「つまびらか」ではないですが、とりあえず、立法者意思で削除されたという事実はこれで分かったかと思います。

 

 削除理由がつまびらかでないことを理由に、検察官の定年の延長の解釈が非でないと解して解釈変更に踏み切ったのです。これをどう思うかは皆さん次第です。

③検察がもつ権力

 検察は行政権の一部と説明しました。しかし、ほかの国家公務員と比べても検察官の権力は強大です。一部を紹介すると、「刑事訴訟の提起」「独自捜査権限」といったところでしょうか。「時の総理大臣を逮捕する権限を持つ」とよく言いますが、まさにそうで、政治汚職等の巨悪を暴いていくのも彼らの仕事です。それだから、検察と内閣は関係性はありながらも距離感を持たせる必要があるのです。これで、検察官が普通の公務員と違うことが分かったでしょうか。定年延長について少し意見が変わったりしましたかね?

 早速議論を見てみましょう。昭和24年の検察庁法改正の議事録です。現行法にもある32条の2の規定(特例規定)についてこう述べています。

○政府委員(高橋一郎君) (略)第三十二條の二は、檢察官は、刑事訴訟法により、唯一の公訴提起機関として規定せられております。從つて、檢察官の職務執行の公正なりや否やは、直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼすものであります。このような職責の特殊性に鑑み、從來檢察官については、一般行政官と異り、裁判官に準ずる身分の保障及び待遇を與えられていたのでありますが、國家公務員法施行後と雖も、この檢察官の特殊性は何ら変ることなく、從つてその任免については、尚一般の國家公務員とは、おのずからその取扱を異にすべきものであります。よつて、本條は、國家公務員法附則第十三條の規定に基き、檢察廳法中、檢察官の任免に関する規定を國家公務員法の特例を定めたものとしたのであります。

出典:第5回国会 参議院 法務委員会 第12号 昭和24年5月11日

  職務の特殊性をここで政府は認めていました。そして、取扱を異にすべきとする見解もここで明らかです。まあ、さっきの僕の説明でも十分理解できることかと思います。その重要性の観点から、任免権を内閣が持つという形式になっているのです。

 ですが、これは長い間慣例によって介入を断ってきました。

・これまで政界と検察との両者間には検察官の人事に政治は介入しないという確立した慣例があり、その慣例がきちんと守られてきた。

・今回の法改正は、検察の人事に政治権力が介入することを正当化し、政権の意に沿わない検察の動きを封じ込め、検察の力を殺(そ)ぐことを意図していると考えられる。

出典:検察OBによる反対意見書より

  強大な検察の力、内閣の悪事も暴く力を持つ検察の人事に内閣が絡むと、内閣の都合のいいように動けば、定年延長という待遇面での優遇が発生しかねません。これが、検察の中立性を脅かす問題なのです。そう経験者からも指摘されています。

 皆さんはどう考えますか?

おさらい(まとめ)

  • 検察は行政権の一部で法務省所轄の機関。
  • 依然は定年延長が認められていたが、立法者意思で削除。
  • 検察官は時の総理大臣を逮捕できるほどの強大な権利を持つ。
  • それ故にその立ち位置は他の公務員と異なる。
  • 内閣と検察官での適度な距離感が必要
  • 検察の中立性の確保